続々々・オランダ(Arthur Ebeling編・最終章)

アムステルダム中央駅から再び電車に乗ってBEVERWIJK駅に向う。
「女王誕生日」のパーティーから家路に向う人が大勢乗っている車内は騒がしい。
女子高生グループがいる車両に乗り合わせてしまったから余計にだったのかもしれない。
「少しは休ませろよ」という気分にもなった。
どこの国でも団体になると“おかまいなし”のガキんちょは存在するんだな。


BEVERWIJK駅に着いた頃には外はすっかり暗くなっていた。
そこからまたバスに乗り換えて、海岸沿いの街・Wijk aan Zeeに向う。
そこにHotel Strandcafe Sonnevanckがある。
アーサー・エイベリングを巡る旅、第3の場所がある。
(しかし、今回のレポートのカタカナで書いてない地名や場所名はなんて読むのかわからん。)


「海の方へ向って歩いて行けば右側にある」と運転手さんが教えてくれ、バスを降りて歩き出す。
海が近くにあるとは思えない閑静な住宅地、匂いを吸い込んでみても海の匂いはしない。
ほの暗い道、「なんとなくこっちだと思う」という勘を頼りに歩く。
教会墓地の横を通り、5,6軒ほど並ぶいかした外装の飲食店を右に見たその先の十字路。
インターネット上で見ていた建物があった。
「あっ、ここだ!」思わず叫ぶ。
と、ほぼ同時に人影が。
アーサー会場入り。
またまたお互い大笑い。


ライヴ会場のホテルの前で。(ライヴの翌朝)


ライヴ会場はこのホテルの1Fにあるカフェ・ラウンジ。
木作りの簡素な空間。
各テーブルにはローソクが燈っていて、その灯りが会場全体を包み込んでいるようで、ほの暗く、そして暖かい。
もう少し説明する。
想像してみてくれ。

そこは暖炉が焚いてある山小屋。
そこにはおばあさん自慢の暖かいスープがあり、それを目当てに近所の人や登山客が毎晩訪れる。
歌の得意な者は、そのお礼にと唄を披露する。
今日あった事件について話す人や、旦那のグチを言う主婦の言葉にも
優しく微笑みながら、耳を傾けるおばあさん。

揺り椅子では真っ白なヒゲを蓄えたおじいさんがパイプをくゆらし、
時々ずり落ちてくるメガネを上げて本を読んでいる。
たまにウトウトしてたりもする。
そして、暖炉の傍では「もう少し静かにしてくれよ」とでも言いたげに時々目を開けては眠りに興ずる
パトラッシュ。

そうやって毎日、夜が更けていく。
そして朝が来るとおばあさんは今夜も訪れる“友達”のことを想いスープの下ごしらえを始める・・・・・。


面白くしようとして、ちょっと言いすぎたかもしれない。
ここは山小屋ではないし、おばあさんがやってる店でもない。
でもそんなに遠いイメージでもない。
客の連れてきた犬も3頭ほどいたし・・・。
もしかしたら“パトラッシュ”という名前の犬もいたかもしれない・・・。
ただ、眠っていたわけではなくテーブルの下をあちこち歩き廻ってたけど。小型犬だけど・・・。


話を戻そう。
客は30人くらいってとこか。テーブル席はほぼ埋まっていた。
空いていたテーブル席に座る。
テラス側の席ではチェスに興じる常連らしき客もいる。

すでにアルコールが入ってごきげんな客、近所からフラッと普段着で来たような客、
前隣りのテーブルにはおしゃれをして華やかなおばさま方。
全体的にはやはり高い年齢層。
そしてみんな笑顔。


アーサーがセッティングを始めて間もなく、アップライトベースを持った人が現れた。
「ん?見たことあるぞ」
彼は元・Jump Dickie Jumpのメンバーでもあり、ソロになってからのアーサーのレコーディングにも
ほとんどの曲で参加している盟友Peer Wassenaarだ。
まさに“メイン中のメイン!” スペシャルライヴだ。

セッティングが終わり、バーカウンターで飲みながら打ち合わせをしている風のアーサーとピアー。
アーサーがオレ達を示し、ピアーに説明してくれてた。


ステージが始まる。
時間はもう22時を回っている。
ベースとギターだけのシンプルすぎる演奏。
だけど昼夕の2回よりも、演奏はもちろんキャラクターの良さも相まったピアーの登場で、
より“バンドっぽさ”が出ていたように感じた。
コンビネーションも抜群。

最初の圧巻は「A Rainynight in paris」という曲。
CDではこの曲のエンディングでアーサー以外の人がとてもインパクトのある声で唄ってるんだけど、
その部分が正に同じ声だったのね。
そう、ピアーが唄ってたんだ。
思わず瞬時に声に出してたもん。
「わっ、本物だ」って。
感動して笑ったよ。



演奏はつづく。
観客はやはりそれぞれ自由な表現で盛り上がって楽しんでる。
ドラムが居ないもんだからって、いろんな物を叩いてリズムを取ってたやつはちょっと煩かったけどね。
でも上手なんだ。

ここでもおばさま方が元気だ。
時々、後ろにいるオレ達に振り返って笑顔をくれる。
「どう?エンジョイしてる?」ってな感じで。

アーサーの歌は掛け合いで唄える歌が多くてね、今まで知らなかった曲でももう2回ステージを観て覚えたし、
掛け合いというものは能動的にその雰囲気を捉えてればわかるものだしね。
ガンガン唄ったよー。
適当な英語も含めてね。


1部が終わる。
ステージは3回共2部講成だった。
それにしても1日に6回ステージ。しかも移動あり。
アイドル並のスケジュールだ。


休憩の時、勇気を出してアーサーに近づいていった。
これを言っておかなければ今回の旅に後悔を残すことになる。

「希望があるんだけど・・・」と。
「Jump Dickie Jumpのナンバー、“KISS”を唄ってもらいたい」と。

すると本人「どんな曲だっけ?」
だから唄った。本人に向って。

「♪ I am a humanbeing, Just like James Dean ♪」
と、まずは4小節。

そしてもう一言。
「そしてバッキングヴォーカルをやらせてほしい」と。
そして唄う。

オレを指差し「♪Hey babe♪」(掛け合いのバッキングヴォーカル)

アーサーを指差し「♪Kiss me once♪」

オレを指差し「♪once♪」(掛け合いのバッキングヴォーカル)

アーサーを指差し「♪Kiss me twice♪」

オレを指差し「♪twice♪」(掛け合いのバッキングヴォーカル)

そしてオレ「♪Oh〜・・・♪」と、それに続くハモり部分。


アーサー、思い出してる顔。そして言った。
「う〜ん、今すぐには出来そうもないなぁ〜」
ま、しょうがない。古い曲だし、Jump Dickie Jumpのナンバーは最近やってないみたいだしね。
「ごめん」と言ってくれたアーサーに「問題ない。充分エンジョイしてるし喜びいっぱいだから」みたいなことを言った。
握手をして肩をポンポンッとしてくれた。

残念だったけど勇気を出して言ってよかった。
そして一生懸命思い出そうとしてくれたアーサーがますます好きになった。
本人に向って唄っちゃったしね。


そして2部。
「Alright We'll Play」という曲の掛け合いでガンガンに唄ったら目配せをくれた。
そのエンディングで「TOKIO!」と言ったような気がしたけど、気のせいかな?

そしてそして、ステージ最後の方のMCで
「今日、日本から3回も観に来てくれた奴がいるぜ〜」みたいな事を言ってくれたんだ。
MCはオランダ語だったけど、「ヤーパン(Japan)」と言ったような気がしたから
弾かれるように飛び上がって両手をあげ「Yeah〜 !」と応えた。
他のお客さんがみんなこっちに向って拍手してくれたんだ。
この時はほんとに「来てよかった〜!」と思ったな。
後でアーサーに「あの時なんて言ったの?」って聞いて英語で説明してもらったんだ。


追記:記憶力の良い同行者が言うには、正確には
「今日1日ずっとFollowしてくれたJapanese Fanがいる。すごくうれしかった」
と言ってたらしい。
もっとうれしいじゃんか!


前隣りにいたおばさまに「なんでここを知ったの?」と聞かれ
「アーサーのWeb siteで調べて、このために来た」と答えたら驚いてた。
「えっ!?コンサートを観るためにわざわざ日本から?」って。
「なんでアーサーのことを知ってるの?」と聞かれたから「CDを聴いて」と答えたらまた驚いてた。
「なにっ!?日本でアーサーのCDが売ってるの?!」って。
アーサーもオレにそう聞いてたっけ。
おばさまがそんな反応だったから聞いてみた。「アーサーはオランダでは有名なの?」と。
そしたらおばさま「うん、有名よ。だけどそれは小さいグループの中でだけ。だけどGood Musician。」
ヴィジュアル系好きの間では有名だけど世間一般ではあまり知られていない。みたいなことだ。

誇らしかったよ。
アーサーのCDを偶然手にして、それを好きになって、有名無名なんて関係なく日本からわざわざ観に行ってさ。
自分の感性も誇った。
オレはきっと得意げで誇らしげな顔をしていただろうな。
おばさまもニコニコしてくれてた。

違うおばさまが“オランダで一番有名なロックバンド”というバンドを紹介してくれた。
コースターにそのバンド名とヴォーカリストの名前を書いてくれた。
「de Dijk」(「ディ・ダイク」と読む。「THE 大工」という意味ではない。)
日本に帰る時、スキポール空港のCDショップでそのコースターを見せたら店員さんはすぐわかった。
「こっちはヴォーカリストの名前だ」とも。やはり有名らしい。
買ってみた。
でも・・・あんまり好きじゃなかった。
ヨーロッパのバンドにありがちな、想像通りの感じだった。



また話を戻す。
ライヴが終わって、早速アーサーのCDを買い求めに行った。
やっと手に入った!うれしかった。
おつりの5ユーロをポケットから探すアーサー。
「あ、無いなぁ〜」とアーサー。
そこでオレは見逃さなかった。
小銭に混じってギターピックがあったことを。
ドキドキしながら言ったよ。
「ピックを貰えませんか?」って。
「これ?」と言いながらくれたよ。
「おつりは後で渡すね」と言うアーサーに、ピックを示しながら「これがおつり代わりだ」と答えた。
やったぜ!


サインとピック。
私は「TAKESHI」だが、「TAKISHI」と書かはった。
でも、その方がおもしろいと思ったから訂正はしなかった。



「何歳だ?」と聞かれて答えた。
そしたらビックリして言った「23歳くらいだと思ったよ」と。
(ちと、そりゃ若すぎやしませんかっ!てーの。)
そして、アーサーが言ったんだ。
「ナイス・ガイ!」と。
な、言ったろ?

「中国人がライヴを観てくれたことはあるけど日本人は初めてだ」と言っていた。
よっしゃ!オレはアーサーも認める日本で最初の、そして1番のファンだ!


そしてそして、またまたお願いをしてみた。
これはほんとに勇気がいった。
「あなたのギターをオレが持って、一緒に写真を撮ってもらえませんか?」って。
「それは断られるかなぁ?」と思いながら。

オレは友達間だって、そいつのギターに触るときはことわりを入れる。
あんまりギターを大切にしないオレだって、何のことわりも無く弾かれたら腹が立つ。
楽器に対するそれは、ミュージシャンにとって礼儀だと思ってる。大切なことだ。

アーサーは横にいた“お”に「彼はギターも弾くのか?」と確認した上で承諾してくれた。
「大丈夫、彼はプロフェッショナルだから」と言う“お”の言葉を鵜呑みにして・・・・・。
すまん、アーサー。オレは決してギタリストではないのだよ。

そして、アーサーがこだわって使っている、そしてどのCDにも写っているGRETCHを肩にかけ、
緊張しながらも2ショットに収まったのだ。
ちょっと弾かせてももらった。
タケシ、カンゲキ〜っだ。



ピアーにもサインを貰った。
日本から持っていってたCD「A Rainynight in paris」のピアーが写っているページを開き「ここに」と示したら、
「おっ、これは俺だ」とおちゃめに言ったので「もちろん!知ってる」と答えたら嬉しそうだった。



もう充分ハッピーだった。
何度も何度もうれしい気持ちと感謝の気持ちを言って、オレ達は朝以来何も食べてないことを思い出し、
近くの飲食店に向ったのだ。(ここではもう食べ物は無いということだからね。)

メキシカンレストランに入るともう閉店のようなムード。
だけど「メニューにあるものは無いけど、何でもいいか?」と言って
ピザのような、クレープのようなものを特別に作ってくれた。
おいしかったな。

食べ終わって、Hotel Strandcafe Sonnevanckに戻る。
今夜はここに泊まるのだ。
カフェを見るとまだアーサーがいた。
でも“これ以上、気を遣わせたくないから素通りしよう”ってことで、
外から廻って、部屋に昇る階段へとまっすぐ向い階段を昇ろうとした。
そしたらだ。
カフェ側の扉が開いて、そこからアーサーが出てきた。
すげー!偶然の嵐。
アーサーも今夜はここに泊まる。
「朝、ビーチに行くんだ」とアーサーは言って“おやすみ”を交わした。

部屋に入る。
ネットで紹介されていた部屋とは大幅に違う・・・。
バスルームもトイレも部屋の外。共同。
でもいい。寝るだけの部屋だ。
オレは満足感の中、かわいい寝顔で寝た。(に違いない。)


Webサイトに載っていた部屋。

実際の部屋・・・。


翌朝。


朝食のあと、株の動向に余念のない著者。

ライヴ会場だった下のカフェでモーニングを食べてからビーチに行った。
北海だ。
砂浜がきれいでね。
青空が広がってて、海までが遠くて、広くて気持ちよかったな。

しばらくしてカフェに戻り、預けてあった荷物を取って帰るつもりだった。
そしたらさ、もうすでに出て行ったとばかり思ってたアーサーにまた会ったんだよ。
すごいだろ?この偶然の嵐。
「ビーチに行ったか?俺もさっき行ってきた」と言うから、
アーサーの「Beach」という曲の出だしを唄った。
「♪I like to go to the beach♪」
またもや本人に向って。
「yeah」と笑って応えるアーサー。

最後の光栄の気持ちを口に出して、最後の握手を交わした。
そして、1人で車に機材をつめ込んで、1人でまたどこかのライヴ会場に向うアーサーに手を振り見送ったのだ。
車からアーサーも笑顔で手を振りかえしてくれたのだ。


こうして“アーサーを巡る旅”は終わりを迎えたのだ。

この3部作は“自分のためにも”と思って、記憶を辿りかなり詳しく書いて長くなってしまった。
もしかしたら読んだ人の中には、しつこくて退屈だった人もいるかもしれないね。
でもこれでも、文字では伝えきれないものがまだたくさんあるんだ。

そして、これは果たして“最終章”なのか?
また何年後かにあるかも?



そしてまだ「続々々・オランダ」は続くのです。
次回はParis編です。



追記:同行者が言ってたんだけど、アーサーが最後にこう言ってたんだって。

「I never forget you !」

オレ、聞き逃してた。



おまけ「風車と著者」