死ぬまで笑って生きて欲しい

暴漢に襲われた。

こんな体温の感じない言葉選びでいいのか?
1行目で迷った。
普段言わないような言葉使いだし、“言葉”というより“活字チック”だし。


まあ、いい。 続けよう。

家路に着くと不穏な空気を感じた。
夜なのに、水で何かを洗い流している近所のオバさんが言う。
「大変だったのよ」
とにかく、“誰かに殴られた”という。
3月25日火曜日のこと。

家のドアに続くフロアには点々と血の跡が、側面の壁にも血の手跡が。
ドア周りに至っては、至る所が真っ赤に血塗られていた。

“フロアーは血の海 彼女は死んでいる”という、甲斐バンドの「冷血」のフレーズが頭をよぎった。

ドアを開け、部屋に入る。
そこにいるはずの人が見当たらない。気配もない。
目にしたものは、レジ袋、タオル、足拭きマット、文庫本・・・、いずれも血塗られている。

“死んだ”と思った。

声をかける。

風呂場から反応。

生きていた。


その人は母親のアサ子。
家に入る前に、いきなり後頭部に衝撃がきたらしい。
何者かに殴られたらしい。

風呂から出てきた母親の首筋からは、血がどんどん滴ってくる。
自身、そして衣服についた血を洗い流すために風呂に入っていたらしい。

“なに、風呂なんて入ってんだ?”

犯行時間から2時間も経っているのに、警察も救急車も呼んでいない。
オレが呼ぼうとすると、それを頑なに拒んだ。

何事も大げさにしたくない、誰かに対して迷惑などををかけるのなら自分が我慢する。
風呂に入って自分で血を洗い流した行動も、そんな表れ。
そういう人なんだ。


ちょうど、母親の友達も駆けつけてくれ、その後押しもあって110番した。

そう、後で気付いたんだけど、110番したんだ。
119じゃなくて110。
救急車よりも警察を優先したんだな。なんでだろ?
死んでないし、意識はハッキリして、あちょっと安心したからかな?
でも先に119だよな、やっぱり。。。
ま、同じことなんだけど。


救急車に乗って病院へ。初めて乗ったよ。
救急車に乗る前、警官との連絡先を教え合う時、ケイタイのストラップが切れた。
「わ、不吉な・・・」と、笑いながら警官に言うオレ。
どんな時でも笑いは忘れないオレ。
もしかしたら、そのストラップは身代わりになってくれたのかもしれない、と思った。


処置の間、親戚のオジさん達に電話した。
あと、誰かいないか?と考えていたところ、母親が警察や救急車を呼ぶことを拒んだ理由がもうひとつ浮かんだ。

隠蔽。

身内の犯行?

オレは親父に電話した。

その対応で疑念は払拭できたが。。。
疑って悪いっ!
でも、知っておいて欲しかった、ということもあった。


7針(といっても、ホッチキスみたいなやつ)縫った。
CTでも今のところは特に問題はないらしい。

処置が終わったところで警察が入ってきて事情聴取。
鑑識が怪我の写真を撮りたいとのこと。
「写真撮るなら、いい女に撮ってよ」と母親。
その軽口が救われる。

それらが終わり、オレの車(処置中に取りに帰った)に乗せて家に帰る。
駐車場からの家までの短い道のり、母親の手を取って「手ぇ、つなごうぜ」と言ったけど、
「大丈夫だよ。年寄りみたいでヤダよ」と母親。
その強がりも救われた。

家の前では父親が待っていた。
オレ、心の中で「○○○(病院の名前)って言ったじゃんかよ!」

一旦、部屋に戻ってから、すぐに現場検証と事情聴取。
刑事らしき人1、警官数名、鑑識の人1名。
それぞれに何度も同じ質問を繰り返す。
「さっきから言ってんだけど」と半ギレのオレ。
ま、それがやり方でもあるようなので、真摯に応える。

でも、見渡す限り、“キレ者”と感じる人間はいない。
ただ1人、鑑識の若い人を除いては誠意も感じられない。
(この若い鑑識の人のことは後日、警察に報告してあげるつもり)

実際、仕切っていたのはオレと言っても過言じゃない。
一番近くにいた若い警官に、オレの推理を話してみた。
すると、こいつは“聞こえてない”ようなフリ。
「じ、自分に言われても・・・」ってな自信のない感じ。
「権限ないし・・・」みたいな。
だから途中でやめて「あ、君に言ってもダメだな。ごめんね」と言ってやった。


それらが終わり、やっと落ちつける時間を得た。
そこには、生粋の“浦田”英雄、“篠田”→“浦田”→“篠田”とUターン組のアサ子。
そして、ある時は“浦田”、またある時には“篠田”を自由自在に操る、クールでミステリアスな男、オレ。

その3人がテーブルを囲んだ。 昔あった風景。

何年ぶりだろ? 10数年ぶり。

途中、オレは血を洗い流しに外へ出たり、母親の着てた服を水に漬けなおしたり、
母親が買ってきてたもの(食材)を冷蔵庫に入れたり、血に染まったタオルなどを処分したりして席を外したが。

母親は、大量の血が出ているにも拘らず、買ってきた食材をレジ袋から出してキッチンに並べていた。
冷蔵庫にちゃんと入れられているものもあった。
それを見て、初めて涙が潤んだ。

ただ、笑い話がある。
野菜室に、血に染まったレジ袋があった。
野菜をそのまま入れたのだろう、と思って中身を見てみたら、血に染まったハンカチやタオルやその他のゴミ。
どうやら気が動転してたのか、間違って入れてたみたい。

オレは血の床を拭きながら、母親も親父の顔も見ないで言った。
「そいつ捕まったら、オレがカタキとってやるからよ」
その時は涙が溢れた。

母親は犯人の姿を見てないし、余罪で捕まらない限り捕まらないだろう。
もちろん、見つかったらただじゃおかない。
本当はその言葉通りのことを言いたかったんじゃない。
「オレがついてるから」
それを伝えたくて、その言葉になった。
(そんなの前から思ってたことだけど、こんなことになっちゃったんだけどね・・・)
たぶん、その裏の言葉通りに察知しなくても、2人はきっと“想い”の部分でわかったと思う。

たぶん、真正面からそんなセリフが吐けるようなオレだったら、あと50人くらいの女子はモノにしてると思う。


そして、もうひとつ言った。
「でも、よく頑張ったな」

親父も続ける。
「そうだよ。大したもんだよ」

母親が応える。
「血ぃ出てんのに風呂入って、服洗ってってか?」

「風呂入っちゃうのはどうかと思うけどな」と、オレ。

そして、笑い。

昔、よくあった光景。



翌日、2人で病院に行った。
問題はなさそう。

ホントによかった。

親戚のオバさん達が来てたので、母親を任せて、オレは“ついで”に「受けなきゃなぁ」と思っていた健康診断を受けた。



アサ子、ホントによく頑張った!
死ぬまで笑って生きて欲しいと、いつも願ってる。