突然、唐突。 オレとカリスマ、夕陽で「じゃあな」

「遊びに行こう」

その電話は突然であり、お誘いも唐突ではあったけど、断るという選択肢は1mmもなかった。
なぜならその人は、憧れの人であり、それは夢のような出来事なのだから。


待ち合わせ場所で落ち合った。

その人は1人で来た。
スタッフなど他の人もいない、オレとその人の2人だけ。

緊張が走ったが、光栄でもあった。
なんだか、“選ばれた”ような光栄。


2人でフツーに電車に乗る。
新幹線などではない。フツーのローカル線。

「誰も俺のことに気付いてないな」と、それを楽しんでいるようにその人は言う。

いや!きっと気付いているに違いない。
だって、オレから見ればその人は、メディアで識るそのままのエネルギーとオーラをバリバリに放っているし、
身に着けてるものだって、“普段着”とは言い難い“ステージ衣装”と呼んでも遠くない服装。
きっと、あまりにも眩しすぎて目を向けられないのだろう、と思った。
もしくは、フツーに吊革につかまって立っているという、絶対にありえなさそうな状況のせいで黙殺されているのか。
いずれにしても、楽しそうにしているその人を感じて、オレも嬉しかった。



海辺の田舎町に降り立つ。
民家の背の低い垣根沿いを2人で喋りながら並んで歩き、浜辺に向かった。

その人は、オレに対して友達のように接してくれた。
有頂天になっているオレがいた。


浜辺に降りる石段に腰掛けていると、その人に気付いたミュージシャン風の男が話しかけてきた。
実際、ミュージシャンだった。
その男が、その人に質問する。

「最近のロック、どうすか?」

その人は、男に答えずオレに顔を向け言う。

「たけし、どう思う?」

ここは、オレの見せどころ、、、だ。

「過去のヒットソングやモードみたいのものを目指して、その雛形にちょっとだけイージィーな手を加えて、
なぞってるのばっかじゃないですか?唄い方にしたって・・・」

「そうだよ。こいつはわかってんだよ」

と、まだ熱弁が続くはずだったオレの言葉をさえぎって、その人が男に言った。

「つまり、オリジナルがないのよ」

“オリジナル”は、“original” と、“ri”にアクセントを置く英語発音だった。


その人はオリジナルの塊のような人。
友達のように接してくれてるけど、絶対的に憧れの人。
その人に「こいつはわかってる」と言われて、またもや有頂天が無頂点になりそうな(ワケわかんないけど)ほど、有頂天になった。



それからのことは、ほとんど覚えてない。

夕陽が町を朱く染めるその頃、その朱い夕陽をバックに、突然なんの前フリも次の約束もなく、
「じゃあな」って、その人は唐突に別れの言葉を告げ、勝手に1人で背を向け帰って行った。
その夕陽の方向に向かって。


一緒に帰ってもいいんじゃないの?

今までの友達のようだった空気感は消え、背を向けていってしまったその人は、
まぎれもなく、メディアの中で憧れてる、カリスマの矢沢永吉だった。

魔法が解けたようで、少し寂しかった。
でも、その寂しさは、愛する人がいない人が本当の孤独を知らないように、幸福感があってこその寂しさだった。


そう、“その人”とは、矢沢永吉。




あれは夢だったんじゃないか?
いつの間にか寝ていたらしい。
寝ぼけた頭で思い返す。

いや、違うよな。
この前、マネージャーと共に会い、その時に意気投合して・・・それで誘われたんだよな。。。矢沢永吉に。
そうだよな?
その“意気投合”も手ごたえを感じたし。。。


まどろみの中で、さっきまで?(あれ、昨日だっけ?)の浜辺のことを思い返しているうちに、また眠ってしまった。
きっと、オレの寝顔は笑っていただろう。
矢沢永吉といた幸福な時間を辿って。





次の日、ふと記憶が蘇る。








あ、、、あれもこれも全部、夢だわ。




ちゃんちゃん。