オレはナイフ。

街を往く。

オレは常に、緊張感に充ちた顔・そして気配を漂わせながら歩く。
女子と手をつないでる時だってそうだし、1人なら尚更だ。

繁華街の人混みでは、その漂いは約2.5倍には膨れ上がる。
オレのきゃわいいタレ目も約15°ぐらいは吊り上がる。

「オレに触れたらケガするぜ」ってなもんだ。

そう、オレは心に携えたナイフの輝きを瞳に写し、街を往く。


チラシ・ティッシュ配り、カラオケの呼び込み、魅力的なエロな勧誘の人達でさえも
声をかけるのをはばかれるような気配だろう。
殺気さえ撒き散らしているかもしれない。

例えばそれは、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ、
あるいは、ダシール・ハメットのサム・スペード(どっちも知らないか)。
はたまた、愚連隊のカリスマ・安藤昇(敬称略)(もっと知らないか)。
さながら、ハンフリー・ボガート(ちょっとは知ってるかな?)。

ま、そんな一分の隙もない、近寄りがたい様相を徹してるにちがいない。

そう、オレはナイフ。

それでもたまに、「若いコいるよぉ〜、1万円ポッキリ!」と、
エロな誘惑にかられそうになる魅力的な声をかける輩や、
行く手を遮るように顔の前までチラシを差し出す不躾な輩もいる。
マニュアルに沿ってやってるだけの鈍感な輩だ。

心にナイフを携えてない者は、他人のナイフにも気が付かないだろう。
痛みを知らなければ他人の痛みもわからないように、
時には強くならなければ真実の優しさを提示できないように。

それでもオレは、「奴らが“足らない”のだ」と責めはしない。
「オレのナイフの輝きが足らない・・・オレの負けだ・・・。」と、
自責の念を持つ。

そう、正義と自己否定の回路を併せ持つ、クレバーなナイフだ。

“The knife in the heart”


そして、普通に差し出されたチラシ類なら、その時のこちらのタイミングと、
「これは興味のあるものか?それとも否か?」をコンマ約025秒で察知する鋼のような瞬発力で、
「必要ない!」と判断した時でさえ、無視して通り過ぎることはせず、
「ごめんなさい。今いらないんだぁ〜。」という言葉の代わりに軽く会釈をして通り過ぎるという、
人類愛と平等愛を兼ね備えたジェントリーなナイフでもある。

“The knife of tenderness”


そう、オレはナイフのエッジの上を歩くような繊細さと緊張を携えて街を往く。

オレの心は、
”The edge of a knife”



- SHIBUYA , TOKYO , P. M. 8 -

オレは今夜もナイフを携え、目的地へと脇目もふらずに歩を進めた。
目的を持たず、たむろってるだけの若者の間を、ナイフのエッジを渡るようなステップで、
自分の歩幅で縫って往く。

「無用心に触れたらケガするぜ」と呟きながら。

そう、オレはナイフ。




又か・・・。うんざりするぜ。
オレを待ち構えるチラシ配りの女子を目線が捕らえた。

サンタさんの帽子を被った女子。

ナイフの気配に躊躇することなく、チラシを差し出す。

そこに声が重なる。








































「もらってちょっ!」







オレはナイフ。
殺気さえも醸し出す気配を放つナイフ。

ナイフのオレに対して、

「もらってちょっ!」・・・・・。


ちょっと屈辱・・・。

正面からナイフの瞳で見据えてやろうか?
とも思ったが、

「怖いわんワンっ」

とか言われそうだったので、やめといた。


負けだ・・・。完敗だ・・・・・。



そう、オレはナイフ。

「無用心に触れたらケガするぜ」







ひとつだけ、Mr .ナイフから君に教えておこう。

オレが携帯する秘密のメモ帳がある。
素敵なフレーズや、いかした口説き文句が浮かんだ時にメモる。
1人で暇を埋めるために「○×」をやったりするような落書き帳ではない。
研ぎ澄まされたナイフのような言葉が散りばめられているメモ帳だ。

この文章も、そのメモ張に電車の中で書いている。

その時のオレのナイフは穏やかに潜んでいることだろう。
どこから見ても“小説家志望の大学生”と見受けられるに違いない。

そのメモ帳。



















表紙は、ミニーちゃんだ。


そう、オレはナイフ。